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テッラ・マードレ
スローフード生産者世界会議
(株)沖縄海塩研究所 小渡幸信 講演内容
平成16年10月22日 イタリア トリノ
日本の南西部に位置する場所に琉球列島という島々があり、その中心になる沖縄本島の北西おおよそ58km離れた所に南北わずか4kmの小さい島があります。それが粟国島です。
人口わずか900人前後の島は、工業、農業共に盛んではない為に、環境汚染がありません。島には珊瑚礁が広がり、海水はコバルト色で透き通っています。
「粟國の塩」は、その海水のみを原料として作ります。
日本古来の製塩方法に、20数年の研究の未発見した技術のすいいをプラスして、手間と時間をかけて作り上げます。
その製法は独特です。
海から汲み上げた40tの海水を流下式塩田タワーで6倍の濃度になるまで濃縮します。
タワーの仕組みは、ブロックを10m積み上げた建物の中に15000本の竹が吊るされています。
汲み上げた海水を10mの高さまで汲み上げ噴射させ、海水が竹をつたって落ちて来る間に水分を飛ばします。約6日間で海水の塩分濃度は約6倍にまで上がります。
その濃縮した海水を平釜で30時間職人が付きっきりで丁寧に炊き上げます。水分を蒸発させると釜の中に塩とにがりがのこります。
その塩とにがりを脱水槽で4日間自然脱水し、その後、自然乾燥に4日間掛けます。そうすると程よくにがり分の馴染んだ塩と、塩には余分なにがりに別れます。
この塩の特徴は、海水と同じバランスでミネラル分が馴染んでいるということです。そのため、人体に優しく、ただしょっぱいだけでなく、にがみ、甘味、辛味などの色々な味わいがあります。
私が塩作りに関して一番大切にしていることは、いかにしてミネラル分をバランス良く塩に馴染ませるかということです。
そもそも、日本の塩は海水を濃縮して炊き上げる、塩田方式がほとんでした。揚げ浜式、入り浜式、流下式など時代とともに仕組みは変わるものの根本的な考え方は同じでした。しかし、「法」の制定によりイオン交換で作られる塩が中心となりました。その方法で作る塩は、ミネラル分を夾雑物として除去してしまったのです。
ちょうとその頃アトピーやアレルギーなどの現代病が騒がれるようになりました。バランスの悪い塩だけでそのような病気になるわけではありませんが、数ある原因の一つであり、それにより人体が治癒力をなくしてしまったのは確かです。
そのため塩は人体にとって悪者になってしまいました。
その頃、私は健康を害していました。健康を取り戻すために入ったヨガ道場で自然食品の大切さを知りました。自然食品を学ぶ中、故・谷克彦と出会い自然海塩のすばらしさを目の当たりにし、塩の研究を始めるきっかけとなりました。
研究を続ける中、ただ自然海塩であれば良いのではなく、海水のミネラルバランスとちょうど同じバランスでミネラル分が馴染んだ塩が良いという結果に達しました。
では、なぜ海水と同じバランスの塩がよいかというと、人間の体液や、特に女性の羊水のミネラルバランスは海水のそれとほぼ一緒なのです。
人間の体内のミネラルバランスが崩れると、体調不良や病気をひきおこします。そのため海水から作るバランスの良い塩を摂るということにより、体調を改善するだけでなく、人間としての治癒力も活発になります。
現在、にがりは食ということに限らず、病気治しの素材として医療の現場でもしようされるようになっています。
私は常に海水のミネラルは命が循環する環境作りをしていると思います。その例として、私が簡単な実験をすることがあります。
イオン交換の塩、岩塩、再製塩、自然海塩をそれぞれバケツの中の水に溶かして、塩分濃度が3.5%になるようにします。
その中に蟹を入れて2時間おきにバケツの中を点検します。すると自然海塩以外のバケツの中の蟹は一日もしないうちに死んでしまいます。しかし、自然海塩の蟹は何日も生きます。それだけでなく、そのバケツの中は蟹の糞とそれを分解するバクテリア、それを栄養として光合成する藻の間に循環が生まれエアーレーションの必要もなくなります。
さらに入れたはずのない貝などが発生したり、多すぎると淘汰されたり、小さな地球ができるのです。
水槽の中に小さい地球の循環をつくり新たな生命を沸いた足せるのはバランスの良い自然塩です。
しかし、近年の減塩信仰は凄まじいものがあります。減塩信仰にいたったのにはいくつかのことがらが関係しています。アメリカのダール博士が日本人に高血圧が多いことに注目して調査したところ、東北地方の塩分摂取量が多く高血圧と脳卒中の人も多いことから原因は塩の過剰摂取によると仮説をたてました。その後、塩分摂取は多くても高血圧の少ない地域もあることから、その仮説は取り下げられましたが、一度起こった減塩信仰はおさまりませんでした。また、塩が高血圧の原因であると導いた有名なラットの実験があります。10匹のラットに通常の20倍の塩分を与え、なおかつ喉がかわいて飲む水にも1%の塩を入れ6ヶ月実験しました。その結果6匹は正常で4匹は高血圧になりました(1953年アメリカ・メーリー博士の実験)ここから塩分の過剰摂取は高血圧になると導く乱暴な結論です。また、人間に当てはめると一日200gの塩を6ヶ月摂り続けても死にいたらず、なおかつ6割が正常であるということは、動物の塩分調節能力が順応していくとこを示しています。これが、佐藤や脂肪に当てはめると死にいたるラットもでてくるとおもわれます。人間が摂取しているものの中で本当に減らさなければならないのは塩以外にあります。
その一つが添加物です。添加物を悪い調味料と知らず、本物の塩を極度に減らすと添加物のナトリウムを使おうとする体が体内にとって危険な化学反応を起こすのです。もう一つが過度に精製された塩です。この微量ミネラルのない塩は現代病を引き起こします。
ファーストフード文化全盛の昨今、インスタント食品、外食などにより子供達の脂肪分摂取量、糖分摂取量、塩分摂取量は増えてきています。それにより親たちは子供へ減塩をせまり塩は最も悪者に一つです。しかし食において塩がなければ味気なく、まずいものになります。先程話しましたように、海水から作るバランスの良い塩はしょっぱいだけでなく、甘味、にがみ、からみがあります。その微妙な味わいが有機物に奥深い味付けをします。その味わいを子供たちに知ってもらうには、食に対して興味を引く教育、即ち「食育」が必要です。しかし、現在、子供を取り巻く食の環境は悪い方向に向かっています。個食という言葉があります。家族と一緒に食事をするのではなく、一人で食事を取るということです。共食の衰退により、家族の語らい、子のしつけ、食に関する文化の伝承など食卓の機能が失われつつあります。また、大量消費文化の中で、インスタント食品による大量のゴミ、廃棄物は地球環境に大きな負担をかけています。このような社会に常日頃身を置く子供たち我々大人がしなければならにことが沢山あります。
その一環として、子供たちが昔ながらの塩作りを経験し、そこでできた塩で色々な食材を調理し、そこから食を身に着ける試みに取り組みはじめています。ものの大切さ、食の大切さを身をもって体験させることにより子供たちをファーストフード社会からスローフード社会に導くことができると考えています。私の塩作りを通して培った技術と知識の積み重ねが役立てばと思います。
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